オトミ刺繍は、メキシコの先住民・オトミ族に伝わる伝統的な刺繍です。白い布地に、動物や植物などのモチーフを鮮やかな色糸で縫い上げる技法で、その色使いと躍動感は世界中のアーティストや職人を魅了しています。

はじめてその布を手に取ったとき、目がくらむような感覚がありました。

この出会いの話を、少し書かせてください。

この色使いは、どこから来るのだろう

はじめてオトミ刺繍を見たのは、輸入雑貨を扱うお店でした。

棚に並んだファブリックのひとつを何気なく手に取ったとき、手が止まりました。 白い布の上に、鳥や花や動物が、これでもかというほどの色で縫い上げられていた。 黄緑の隣に赤、その隣にオレンジ、さらにピンクと紫。 普通なら「やりすぎ」と感じるはずの組み合わせが、なぜか調和していた。

「これはどこから来た色なんだろう」と、しばらく動けませんでした。

刺繍を続けてきた私にとって、糸の色は「整える」ものでした。 トーンを揃えて、主役を決めて、引き立て役を選ぶ。 でもオトミ刺繍の布には、そういう「まとめよう」とする意志が感じられなかった。 むしろ、すべての色が主役として並んでいるような、伸びやかな自由さがあった。

手元に置きたかった、それだけの理由

その日から、オトミ刺繍が頭から離れなくなりました。

ブローチにしたら、どんな顔になるだろう。 バッグに着けたとき、あの色がどう動くだろう。 そういうことばかり考えながら、似たようなものをネットで探してみましたが、アクセサリーとして仕立てられたものがほとんど見つからなかった。

ならば、作ろうと思いました。 だれかに頼まれたわけでも、売ることを最初に考えたわけでもない。 ただ、自分が手元に置きたかった。それだけが、オトミ刺繍の作家としての出発点です。 配色ひとつ、縫い方ひとつ、すべて自分で決める。そのこだわりが、今の作品につながっています。

MRE handmadeを始めてから、ずっとそうしてきました。 自分が欲しいと思えないものは、作りません。 自分が着けたいと思えるものだけを、かたちにしてきました。 オトミ刺繍ブローチも、その延長線上にあります。

配色を決めるのが、いちばん難しくて、いちばん楽しい

作り始めてすぐに気づいたのは、配色の難しさでした。

オトミ刺繍には「こう配色しなければならない」という決まりがありません。 伝統的なモチーフはあっても、色の組み合わせは作り手に委ねられている。 だから逆に、どこで止めればいいのかが難しい。

最初に作ったロバのブローチは、何度も配色を変えました。 最初は落ち着いた色でまとめようとしたのですが、オトミ刺繍らしさが出なかった。 次に思い切って明るくしたら、今度はどこか作り物っぽくなってしまった。 「整える」ことをいったん捨てて、色と色を並べたときの感覚に任せてみたとき、ようやくしっくりくる組み合わせが見えてきました。

今も、配色はすべて手を動かしながら決めています。 頭の中で考えていても、針に糸を通して布に当ててみなければ、本当のことはわからない。 そのひとつひとつの確認が、私にとっていちばん集中できる時間です。

糸は選べるが、光は選べない

刺繍糸は何百色もある中から選べますが、縫い上がった糸が光をどう反射するかは、実際に縫ってみなければわかりません。 同じ色番号の糸でも、縫い方や密度によって、見え方がまるで変わります。 完成するまで本当の表情はわからない。その緊張感と、完成したときの驚きが、作り続けている理由のひとつかもしれません。

日本でオトミ刺繍のアクセサリーを作る人が、ほとんどいない

作品をお見せすると、よく言われることがあります。

「こういうの、どこかで見たことがないんですよね」と。

オトミ刺繍はメキシコの伝統工芸で、日本でも布や雑貨としては流通しています。 でも、それをブローチやアクセサリーに仕立てている作り手は、ほとんどいない。 なぜそうなのかは正直わからないのですが、だからこそ続けたいとも思っています。 「こういうのが欲しかった」と言ってもらえるたびに、作り続ける理由が増えていきます。

だれもいない場所で作っているというのは、少し心細いようでもあるけれど、 自分が先頭にいる感覚でもある。 「このあとどうなるんだろう」という期待が、針を持つ手を動かしています。

オトミ刺繍は、私の中でまだ続いている

鳥とロバ。今のところ、オトミ刺繍のブローチはこの二種類です。

次は何のモチーフにしようか、どんな色を並べようか、まだ決まっていません。 でも、手を止めるつもりもない。

あの日、棚の前で動けなくなったときの感覚を、いつか手に取った人にも感じてもらえたら。 そう思いながら、今日も糸を選んでいます。

MRE handmade Shop

オトミ刺繍のアクセサリーを、見てみてください。

鳥モチーフ・ロバモチーフ、一点ずつ手縫いで仕上げたブローチを取り揃えています。
近くで見ていただけたら嬉しいです。

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