羽織紐とは、羽織の前を留めるための紐状の装身具です。房付きの組紐やビーズ細工などさまざまな素材で作られ、着物のコーディネートの中で目が行きやすい位置にあるため、全体の印象を左右する小物とされています。
羽織紐に、ハンドメイドという選択肢があることを、知っていましたか。
羽織紐ひとつで、着物の印象が変わる
羽織紐は、羽織の合わせ目をとめる小さな紐です。けれど、この小さな紐ひとつで、コーディネート全体の印象が驚くほど変わります。同じ羽織を着ていても、紐の色や質感が変わるだけで、全体が締まって見えたり、逆にやわらかい印象になったりする。
着物を着るとき、帯や着物本体にはこだわっても、羽織紐まで意識が向く人は多くありません。既製品には無難で選びやすいものが多い一方、「これだ」と思えるものに出会うのは案外難しい。選ぶ楽しさと難しさが、同じくらいそこにあります。
ビーズで作ると、羽織紐はこう変わる
私が作る羽織紐は、ビーズクロッシェという技法で仕上げています。かぎ針でビーズを一粒ずつ編みこんでいく、地道な作業です。
量産品の羽織紐と並べてみると、違いは触ってすぐにわかります。まず、やわらかい。編み目にわずかな遊びがあるので、締めたときに紐が体になじみます。そして軽い。見た目のボリュームのわりに、驚くほど負担になりません。
何より違うのは、光の拾い方です。歩くたびにビーズがわずかに揺れて、光を反射する。静止した写真ではわからない、身につけて動いたときにだけ見える表情があります。
天然石を選ぶのは、重さと色と意味のため
羽織紐にはヘマタイト、ハウライト、オニキスといった天然石を組み合わせています。
選ぶ基準はいくつかありますが、まず重さです。天然石には、ガラスビーズだけでは出せない、ほどよい重みがあります。この重みが紐の下がり方を安定させ、結び目がだらしなく緩みにくくなる。
色にも理由があります。ヘマタイトの鈍い銀色、ハウライトの白、オニキスの黒。どれも着物の柄を邪魔せず、それでいて主張を持つ色です。そしてもうひとつ、石にはそれぞれ意味があると言われています。着物を着る特別な日に、色や重みだけでなく、その石が持つ意味も一緒に纏ってもらえたらという気持ちが、天然石を選ぶ理由の根っこにあります。
男性の着物にも、女性の羽織にも
羽織紐というと女性向けのイメージを持たれることもありますが、私が作るものは男女どちらでも使っていただけるように配色を考えています。
この記事のいちばん上の写真は、どちらも同じ一本です。波くすみピンク×ホワイト×ハウライト。左は紺の羽織に、右は生成りの羽織に合わせています。くすみピンクは女性のためだけの色だと思われがちですが、濃紺の着物に置くと、意外なほど品よく収まる。白との縞が効いて、甘さが出すぎないためだと思います。
落ち着いたトーンで揃えたい方には波ブラック×ホワイト×ヘマタイトを、華やぎを添えたい方には緑デイジー×パールを。着物を着る機会そのものが少なくなっている今だからこそ、その一本を選ぶ時間を大切にしてもらえたらと思っています。
手作りの羽織紐を、日常の着物に
特別な日だけでなく、普段着物を楽しむ方にも手に取ってもらえたら嬉しいです。
作り手としてできることは、着物を着る人の背中を、ほんの少し後押しすることくらいかもしれません。それでも、羽織紐ひとつが「今日はいつもと違う」と思わせてくれることを、私自身がいちばんよく知っています。
今日も、ビーズを一粒ずつ編みながら、次はどんな色を合わせようかと考えています。